じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

小説「麗しき花実」

今年は江戸時代後期の琳派を代表する画家、酒井抱一の生誕250年にあたります。それを記念した展覧会が、都内で2つ開かれています。
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一つは丸の内の出光美術館の「琳派芸術ー光悦・宗達から江戸琳派ー」、もう一つは白金台の畠山記念館の「酒井抱一ー琳派の華ー」です。本阿弥光悦俵屋宗達尾形光琳にあこがれつつも新境地を開いた江戸時代の琳派の作品がまとめて見られるうれしい機会なので、ぜひ出かけてみたいと思っています。
一昨年、朝日新聞に連載していた乙川優三郎の「麗しき花実」という小説に酒井抱一が出てきました。古風な挿画(今年100歳の中一弥さん)にひかれて読みはじめたのですが、櫛や印籠などの蒔絵の職人として身をたてようとする女主人公の成長物語が面白く、毎日続きを読むのが楽しみでした。
蒔絵師の原羊遊斎に下絵を提供していた酒井抱一やその弟子の鈴木其一など実在の人物がいろいろ登場しますが、当時の文人たちが河東節に親しんだ様子が描かれているのも興味深く読みました。主人公が頼りにする女性が、酒井抱一作の河東節を聞かせる場面もあります。
邦楽が出てくる小説といえば、谷崎潤一郎の「春琴抄」、有吉佐和子の「地唄」や「一の糸」などが浮かびますし、時代小説には清元のお師匠さんや長唄を習う女の子が出てきたりもしますが、河東節というのは珍しいのではないでしょうか。
酒井抱一も好んだという河東節の会が、2月16日(水)午後2時から紀尾井小ホールであります。→ 「河東節を知る会」
200年前の抱一の絵とともに、その頃から変わらずに伝承されている三味線音楽を鑑賞してみるのも一興です。

乙川優三郎さんの「麗しき花実」は単行本として朝日新聞出版から刊行されています。
乙川さんの短編集「逍遙の季節」(新潮社刊)にも河東節が出てくる「竹夫人」という短編が入っています。いずれも江戸の時代に自分の道を見つけて凛として生きた女性の物語で、こちらもおすすめです。

(Y)