じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

『浄瑠璃を読もう』

昨年夏に出版されてからずっと気になっていた橋本治さんの著作『浄瑠璃(じょうるり)を読もう』を、この正月休みにようやく手にとりました。(新潮社のサイト→橋本治 『浄瑠璃を読もう』 | 新潮社

今からもう5年前になりますが、2008年に女流義太夫三味線の鶴澤寛也さんによる「義太夫を音楽としてよみがえらせる会(略称 道行の会)」3回シリーズに伺ったとき、毎回演奏の前にあった橋本治さんのお話がとても面白かったので、これはぜひ読んでみたいと思ったのでした。「道行の会」について寛也さんは、「ナビゲイターに作家で義太夫通でもある橋本治氏をおむかえし、理屈ではない、音楽として、義太夫節の豊かな音色をお届けします」とコメントしています。(公演レポートはこちら→公演情報:義太夫を音楽としてよみがえらせる会 3回シリーズ〜略称:道行の会〜第1弾【日本伝統文化振興財団 じゃぽ音っと】
橋本さんはさまざまな古典の自在な現代語訳の出版でも知られていますが、義太夫についてもストーリーが全部頭のなかに入っているらしく、登場人物をまるでよく知っている人のように語るのにはおどろかされました。この本でも人物評(とくに女性の)が秀逸です。
目次は次のとおり。

浄瑠璃を読もう
仮名手本忠臣蔵』と参加への欲望
義経千本桜』と歴史を我等に
『菅原伝授手習鑑』と躍動する現実
『本朝廿四孝』の「だったらなにも考えない」
『ひらかな盛衰記』のひらがな的世界
国性爺合戦』と直進する近松門左衛門
これはもう「文学」でしかない『冥途の飛脚』
『妹背山婦女庭訓』と時代の転回点

まえがきに、「ここで言う『浄瑠璃』とは、人形浄瑠璃のことである。そのテキストを読もうと言うのである」とあります。それぞれの演目がどんなストーリーなのかきちんと知ろうというのがこの本の主題です。とりあげられているのは名作ばかりで、これまで文楽や歌舞伎で幾度となく観てきたはずなのですが、この本を読み進めるうちに「そうか、これはそういうお話だったのか!」と気づかされ、今まで知らなかった面白さが立ち現れてきます。
もちろん、「道行の会」で語っていた義太夫の音楽としての楽しみにも触れられています。あとがきで橋本さんは「はっきり言って私は、義太夫節を音楽として好きで、面倒臭い話なんかどうでもいいんです。・・・・」と明かしています。
この本は雑誌連載をまとめたもので400ページ以上もありますが、連載時に並行して子供向けの「歌舞伎絵本シリーズ」(全5冊、ポプラ社)を出しています。子供向けといっても、岡田嘉夫さんの絵による豪華な絵本で、橋本さんの解説もきちんとされていてわかりやすく、大人にもオススメです。(ポプラ社のサイト→

このシリーズの「義経千本桜」が手許にあるのですが、この絵本で物語の全体像が初めてわかったような気がしました。「大物浦」「すしや」や「道行初音旅」「川連館(四の切り)」など、「義経千本桜」の名場面は別々のエピソードの寄せ集めという印象があって、そもそも主人公であるはずの義経があまり出てこないのもなんとなく妙だと思っていたのですが、そのナゾをみごとに解き明かしてくれました。
さて、『浄瑠璃を読もう』を読んで、「それでは浄瑠璃のテキストを探してきて読もう!」という気になったかといえば私の場合はそうではなく、もっともっと文楽や歌舞伎を観に劇場に行きたくなりました。

(Y)